酢酸インドキシルを用いた塩基性条件下におけるインジゴレッドの合成実験

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こんにちは、インジゴのあっこです。 先日、赤色の色素であるindirubin(インジルビン)の合成実験を行いました。 インジルビンは、青い色素であるindigo(インジゴ)の構造異性体です。

indican

インジゴは、ジーンズや藍染の染料として利用される青色の色素ですが、その前駆体であるindican(インジカン)は藍に含まれているため、藍染によって青く染色することができます。配糖体であるインジカンを加水分解してindoxyl(インドキシル)を取り出し、これを酸化的二分子結合することでインジカンからインジゴを得ることができます。しかし、このインドキシルを酸化してisatin(イサチン)という分子を生成し、インドキシルとイサチンが結合すると、赤色の色素であるインジルビンが得られます。今回の実験は、このインジルビンという色素を合成してみようという試みです。

いくつかの論文で報告されている手法を参考にし、塩基性(エタノール水溶液)条件下で酢酸インドキシルからインジルビンを合成することにしました。酢酸インドキシルはインジカンよりも安価であり、さらにインジカンと同様に加水分解してインドキシルを生成するため(牛田ほか19981)、実験試薬としてインドキシルではなく酢酸インドキシルを用いました。インジルビンの生成比率は塩基性条件下で高くなること(古濱20052)、水溶性の低いイサチンを可溶化する必要があることから、塩基性のエタノール溶液中で実験を行いました(牛田ほか19983)。

酢酸インドキシルから得られたインドキシルは空気中の酸素で容易に酸化されてインジゴが形成されてしまうので、この実験はアルゴン雰囲気下で行うことが理想的です。実験当初はそのことを忘れていたため、以下の写真のようにビーカー内でインジゴが生成されてしまいました。

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そこで、空気中の酸素と反応しにくいようにビーカーよりも口径の小さな試験管を使って実験を行いました。手順は以下の通りです。

  1. エタノール濃度20%から100%までの4種類の水溶液を用意し、それぞれの溶液のpHを水酸化ナトリウムで塩基性になるように調整したものを試験管に20mL加える。
  2. 酢酸インドキシル0.01gを各試験管に加え、パラフィルムで封じる。
  3. 試験管をウォーターバスで2時間加熱(65ºC)。

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この方法で実験を行うと、酢酸インドキシルを加えた段階で、赤い色素の生成を確認することができました(写真上)。インドキシルから確かにインジルビンが合成できています。

実験条件ごとに結果を観察すると、pH約12の溶液中では赤い色が多く、pH約13ではインジゴが生成されたためか紫色の溶液が得られました。また、エタノール濃度別にみると、30-50%程度の濃度でインジルビンが多く合成されていると思われます。先行研究のようにHPLCを使わずに呈色度合いを目視で観察しただけですが、今回の結果からは、酢酸インドキシルからインジルビンを合成するには、pH12程度、エタノール濃度約30-50%が適しているということが言えそうです。

藍染の材料から赤色を合成するというのは想像以上に楽しい実験でした。今後はpHやエタノール濃度を変えて、より詳細な実験を行う予定です。それでは。

1 牛田智・谷上由香・太田真祈(1998)藍の生葉染めの過程におけるインジルビンの生成条件, 日本家政学会誌, vol. 49, 389-395.
2 古濱裕樹・牛田智・山越さとみ(2005)藍の生葉の煮染めでインジルビンによる紫色が染色される要因, 日本家政学会誌, vol. 56, 389-397.
3 牛田智・谷上由香(1998)藍の生葉染めにおける絹の赤紫染色の条件, 日本家政学会誌, vol. 49, 1033-1036.

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